土俵の鬼が教える「強さ」の正体 朝乃山と初代若乃花を結ぶ四股の縁

西前頭16枚目と1年半ぶりに幕内の土俵に上がった朝乃山、先場所に引き続き前に出る相撲を存分に見せ、13日目までは優勝争いに絡む活躍で「朝乃山ここにあり!」と存在感を大いに示せた場所でした。

初日こそ黒星スタートでしたが、前に攻めながらも土俵際あと一歩及ばずという敗戦で、2日目以降も前に出る攻めが際立ち中日8日目の錦冨士戦以外は常に前に圧力をかけて右を差す、突っ張るという積極的な相撲が光りました。最後3連敗したのは残念でしたが、今後上位で戦い、三役に上がり、大関復帰を果たし、横綱昇進へとつなげるためには意味のある3連敗だったと思っています。朝乃山の相撲の素晴らしさは、右四つ前に出るという正攻法の型をもって相撲を取り切れることです。しかしながら15日間通して自分の相撲が取れる訳ではありません。体調面や精神面、相手との相性、些細なことがリズムを崩し右が差せなかったり足が出なかったりして受けに回らなければならない相撲も出てきます。そういう場合でも我慢して勝ちに結びつけられる「受けの強さ」が今後は必要になってきます。

横綱豊昇龍との稽古(1月6日)

“土俵の鬼”と称された初代若乃花は、二所ノ関部屋に入門したものの師匠大ノ海の独立によって花籠部屋という小部屋で関取生活をスタートしました。本家の二所ノ関部屋とは縁が切れ、稽古や巡業も花籠部屋単独で行わなければなりません。巡業に出ても関取一人の小部屋ですからお客さんの入りも悪く、若乃花が下の者に激しく稽古をつけてやるのを見せるしかお客さんを満足させる術はありませんでした。ですから若乃花は、出稽古などにも一切行かず、部屋の若い衆を相手に一日100番余りの稽古を続けて横綱にまで昇りつめました。下の者相手の稽古にも創意工夫を凝らしたといいます。俵に足を乗せ若い衆に土俵の真中から勢いをつけてぶつからせ、そこで受け止めて土俵を割らないようにする。また相手が右四つ得意なら右四つに組んでやり、左上手を引き付けて右の差し手をグイとつけつけ、その稽古が後に“呼び戻し”の荒技へとつながっていきます。初代若乃花の稽古を見続けた相撲評論家の小坂秀二氏は著書の中で「こうして若い者を鍛えている間に、若乃花自身強くなっていった。だから、上に鍛えてくれるものがいなくては強くなれないというのはウソである。自分より下の者、弱いものばかりを相手にして強くなった実例がここにある。ただしその稽古は見ていられないほどの激しい稽古であった」と記しています。また、先々月号で紹介した空手家の柳川昌弘氏は、外部からの力に耐える力である受動筋力の大切さを説き、初代若乃花は「受動筋力の使用法の達人であった」と記しています。

受動筋力を鍛えるための四股

棒を使った鍛錬

朝乃山が現在取り組んでいる四股は、まさに受動筋力を鍛えるための四股です。そして若い衆相手のアンマ(下の者に胸を出して稽古をつけること)やぶつかり稽古で重い胸を出す(土俵際しっかり残る)ことにも、もっと取り組んでいけば受ける力もどんどんついてきます。攻める力は、体力や年齢にも影響されますが、受ける力である受動筋力は、体力や年齢に関係なく高められる“相撲力”そのものです。まだまだ時間はかかりますが、朝乃山が受動筋力を高め番付を上げていくのを期待して見守っていきましょう!

師匠と共に先代の墓参り(1月3日)

報告する

関連記事一覧