高砂部屋から生まれた『大相撲の社会学』【その1】

『大相撲の社会学』という本が2023年7月に22世紀アート社から出版されました。著者の生沼(おいぬま)芳弘(よしひろ)氏は、1952年神奈川県南足柄市の生まれで東京教育大学体育学部大学院修士課程で相撲部屋の研究をすることになり、昭和49年から2年ほど元横綱朝潮の5代目の高砂部屋に寄宿し力士と寝食を共にして修士論文「相撲の部屋制度に関する社会学的研究」をまとめました。その論文を基に、東海大学教授時代の1994年に出版した『相撲社会の研究』(不昧堂出版)が539頁にも及ぶ鈍器本ととして新装刊行されました。一般社会から見ると特殊な集団である相撲界を学術的に探求した貴重な研究書といえます。

同書は5章から成り、第1章が「相撲社会の人口とその居住形態」で、江戸文政5年(1822)から昭和61年(1986)までの力士数や相撲部屋所在地の推移が調査されています。正確な数字が残っている昭和2年(1927)以降を見ても、時代と共に200名台~700名台を上下動し、現在600名を割った力士数が特別少ないわけではないことを教えてくれます。

第2章「相撲部屋の社会構造」では、「部屋の建物構造」と題して昭和50年(1975)当時柳橋にあった高砂部屋の1階から4階までの見取り図が描かれ、高砂部屋伝統の皿土俵について、「高砂部屋ではかつて2回土俵に俵を入れたが、1回は昭和7年俵を入れた直後に春秋園事件(力士のストライキによる大量脱退事件)が起こり、もう1回は終戦直後で横綱前田山が病気となったため稽古場の土俵に俵は禁物というジンクスが生まれた」という興味深い話も掲載されています。

さらに、高砂部屋を構成する関取、幕下以下の力士養成員、年寄(部屋付親方)、おかみさん、行司、若者頭、世話人、呼出し、床山の仕事内容や部屋での序列、報酬まで細かく紹介されています。また、2階の大部屋には

「若者会会則」
  1. 見舞金 一か月以上入院の場合 金10,000円 一か月以内入院の場合 金 5,000円
  2. 餞別  三年で 金 5,000円 一年毎に 金 3,000円加算
「高砂部屋三訓」

1.明るくほがらかな力士に成るように努めること。
2.責任感強く、礼儀正しい力士に成るように努めること。
3.先輩の注意をすなおに聞ける力士に成るように努めること。

「注意事項」
1.1週間に3回以上11時過ぎに帰宅した場合一か月の外出禁止処分をあたえる。

2.掃除の際は全員参加する事。
チャンコ番は風呂場・稽古場の座敷を特にきれいにする事。

~「秀成山・大和龍より」~

とあり、若い衆の統率は最古参の兄弟子によってなされていたことが窺えます。
さらに興味深いデータが続きますが、3章以降については次々号で紹介していきます。

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