手術からほぼ2か月経ち回復具合は順調なようです。9月場所に入ってからはマワシを締めて稽古場に下り腕立て伏せやテッポウ等、膝に負担のかからない運動を中心にリハビリに努めています。まだ深く腰を下ろすことはできないようですが、四股も軽く踏めるまで回復してきました。
股関節とつま先を外向きに開き腰を落とした姿勢を“腰割り”の構えといいます。四股を踏むときの基本の構えであり、相撲の基本である“腰”をつくる構えです。腰割りの構えで一番大切なことは、腰を深く下ろす事ではなく、腰を入れて上体を真直ぐに立て骨の向きを揃えることです。向きが揃うことによってどこにも負担のかからない均一な構造をつくることが出来、構造的に強く怪我をしない構えになります。
四股やテッポウ、すり足といった相撲独特な基本運動は、筋力を高めるためではなく、骨の並びや向きを揃え均一な構造をつくるためにあります。
しかしながら最近の一般的な傾向として、四股やテッポウを自重を使った筋力トレーニングや股関節の柔軟運動、バランストレーニング等と捉え、準備運動的な運動になりがちです。そのため、一回一回立ち上がり、足を上げ、上げた足だけ下ろして、その後に腰を下ろし深くしゃがみ込むという、いくつもの動作をつなげた動きで行ってしまいます。それは、日常的な立つしゃがむ動作をくり返すだけで、構造をつくる鍛錬にはなりません。
下の写真は双葉山が四股を踏んで腰を下ろし切った構えです。写真を見てわかるように、腰を下ろし切った時に膝と腰が一直線に並び、これ以上腰を下ろすことはありません。また、上半身は立った腰の上に真直ぐ乗っかり、真直ぐに立ち上っています。昭和40年代までは、殆どの力士がこういう四股を踏んでいました。
朝乃山も股関節が柔軟なばかりに、腰を膝より下に深くおろし、上半身が前傾する現代風の四股を踏んでいます。相撲を始めた頃からそういう四股で強くなってきましたから変えるのは難しいのですが、今回の膝の怪我は、四股の踏み方を変えるチャンスです。膝関節の怪我予防のためにも上体を真っすぐ立て、しゃがみ込まずに膝と腰の高さを揃えた構造をつくるための四股に取り組んでもらいたいと願います。それが、怪我をしない、筋力に頼らない相撲を取ることにつながります。