一年納めの九州場所は、11月10日(日)から福岡国際センターにて行われます。新番付は10月28日(月)に発表され、秋場所十両2枚目で全休だった朝乃山は東幕下筆頭の位置まで番付を下げました。
秋場所後は巡業を休んで部屋に残り、膝のリハビリに励みました。深く曲げることが出来なかった右膝は、膝関節が90度になるまで腰を深く下ろすことが出来るようになり、小さく軽い動きなら四股も踏めるようになってきて順調に回復が進んでいます。すり足のように膝を曲げた姿勢で前に動く動作にはまだ不安があるようで、すり足が違和感なく出来るようになるのが今後の回復の目安になるようです。福岡へは10月27日(日)に乗り込み、唐人町成道寺で黒マワシ(幕下以下は黒マワシ)姿で稽古場に下り腰割りや四股、テッポウ、腕立て伏せ等、出来ることをくり返しつつ福岡の病院でのリハビリにも通う毎日です。
膝関節は、人体にある関節の中で股関節や肩関節と並ぶ大きな関節です。股関節や肩関節が360度動く球状関節なのに対し、基本的には前後方向にしか動かせない蝶番(ちょうつがい)関節です。膝関節は、丸い形の大腿骨の先端がスネの骨(脛骨)の先端の平らな部分の上を滑るように動きますから構造的には不安定です。不安定な構造を内側側副靱帯や外側側副靭帯、前十字靭帯等がつなげ前後左右に動き過ぎないように守ってくれています。それゆえ、骨の並びと向きを揃えることがより大切になってきます。
また、構造上大きな体重を支えるようにはなっていません。体重を支えるためではなく股関節や足関節と連動して動かすことで力を効率よく伝えるためにあります。四股を踏むときに大切なことは、全身を連動させて動かすことです。軸足の膝に体重を乗せて足を上げるのではなく、体重移動しながら膝関節、股関節、上げる足を同時に動かすことです。同時に動かすことによって、膝にも股関節にも太腿にも負担をかけることなく全身が均一につながって滑らかに動くことが出来ます。同時に動くことで相手に対する力は何倍にも大きくなります。軸足の膝に体重を乗せて足を上げるのは、膝を支点にして身体を持ち上げることになり、非常に効率の悪い力の出し方です。膝への負担も大きくなります。太い針金でも一個所をくり返し曲げ伸ばしすれば折れてしまいます。人間の体も同じです。一つの関節に負担をかけないよう全身の関節を同時に動かすことにより、痛めることなく、より大きな力を発揮できるのです。
四股やテッポウは、全身を同時に動かす動きを身につけるために何百回,何千回とくり返します。朝乃山も今回の膝の怪我をチャンスと捉え、どこにも支点をつくらない滑らかな動きを追求していかなければなりません。朝乃山は、そういう相撲を取れる可能性を秘めた数少ない力士です。